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新しいイオン化法を用いた生命科学研究・医療診断機器の開発

 本研究は竹田が2006年に山梨大学に異動した際に開始した医工融合研究が端緒となっている。当時、山梨大学クリーンエネルギー研究センターの平岡教授が探針エレクトロスプレーイオン化法 (Probe ElectroSpray Ionization, PESI) の応用法をさまざまに模索していた。このイオン化法には、生体試料を前処理なし、低侵襲で迅速かつ簡便に測定できるという特性がある。従ってこれを使用すると他のイオン化法では得られないマススペクトルデータを得ることが可能である。得られたデータを次元縮約せず全て利用して診断を行えば、これまでにない診断情報を与える手法となるのではないかと考えた。そこで、経験に基づいて高精度な予測が可能な機械学習をオンライン結合した迅速小型がん診断支援装置を開発することを島津製作所と共に開始した。  1980年代初めよりわが国の死因の第一位を占めるのが悪性新生物 (広義の「がん」) であり、その予防、診断、治療には「対がん10ヶ年総合戦略 (1984〜1993) 」に代表されるような巨額の国家予算が投じられてきた。それによってそれぞれの領域で長足の進歩を遂げたことに間違いはないが、最終診断が実際の組織を鏡検する病理組織学的診断 (病理診断) であることには現在でも変わりはない。病理診断では摘出した標本を加工して顕微鏡観察するまでに複雑な行程を必要とするため時間と手間がかかり、その診断には熟練した病理学者の鑑識眼が必要とされる。従って、例えば内視鏡等の生検でがんの疑いがある組織を摘出してから患者が結果を知るまでに日単位の時間が必要となる。  更に、「がん対策推進基本計画」でも指摘されているように、現在、医療の現場では病理医の不足が大きな問題となっている。一方、がん細胞自身や周辺組織から反応性に分泌される腫瘍マーカーの研究が進み、数多くの有用な腫瘍マーカーが同定されている。そのうちいくつかは臨床各科で頻用されるが、閾値のレベル設定が難しく、比較的高い擬陽性、擬陰性率の問題がクリアできていないため万能ではない。特に早期のがんでは濃度の有意な上昇が見られないものが多い。従って腫瘍マーカーは集学的診断の一部を担うに過ぎない。    以上の状況の中で、がんの疑いのある検体を検査室や手術室で簡便、迅速、低侵襲かつ正確に判断する装置の必要性が今後ますます高くなると予想し、迅速がん診断支援装置の開発を行うこととした。2012年より2015年までJSTの「先端計測分析技術•機器開発プログラム」の支援を受け、島津製作所と共に開発を行い、現在医師主導治験に向けた準備を行なっている。  また教室の吉村がこのプロジェクトを発展させてメタボロミクスやマススペクトル情報の汎化処理法の研究を展開している。迅速がん診断支援装置におけるデータ処理法の背景なども含めて解説しているので、こちらを参照されたい。質量分析、メタボロミクス、データ解析